僕がギターの改造を初めて15年ほどの月日が経ちました。別に改造を専業にしているわけでも、半田付けがとりわけうまい訳でもないので半田ごてを1,2ヶ月触らない期間もあります。しかし、何かの折に一旦修理や、改造、製作のスイッチが入ると数日間朝まで寝る間を惜しんでひたすら半田ごてを握っている事もあります。それは作曲やギターの練習に没頭しているのと同じくらいクリエイティブで、終わると出し切って何も残ってない空っぽな満足感が得られる時間です。

僕がギターを弄りはじめたのは、当時貧乏でいいギターが買えず、なんとかピンク・フロイドやボストンのようなサウンドが出したいと思ったからです。ボストンのTom Scholz は自作の機材を多く使いあの名作『Boston』のアルバムを作り上げたし、David Gilmour のサウンドにも優秀なエンジニアが関与しています。それにお金があったとしても、ストラトのリアの音とフロントの音をブレンドするギルモア仕様(勝手に命名)のストラトはレギュラーのラインナップにはありません。今ではギルモアのシグネイチャーモデルを買うという選択肢はありますが、結構いい値段がしますし、人と同じものは使いたくないという生来のひねくれ者でシグネイチャーという選択肢は僕にはありません。

ギター弄りから始まり、ペダルエフェクター、ラックエフェクターの修理、マイク、ギターアンプ、ミキサー等、とりあえず一通り身近にある楽器、機材は一度は分解して中身を見てから使い始めます。昔はWindowsPCの組み立てや、MacProの増設、改造も好きだからそういう性なのでしょうね。今ではネットやYouTubeにも様々な改造、製作の情報、動画が転がっています。僕がやり始めた頃には参考になりそうなサイトが数個しかなく、Pink Floydのマニアックな情報は英語サイトを潜らなければ出てきませんでした。今では本人解説や、インタヴュー動画が多く上がっているのでいい時代になったものです。好きなギタリストの足元のぼやけた写真からエフェクターや機材を特定する狂った探偵みたいな事をしなくていいのはとてもよい事と思います。さらに、いろんな改造愛好家の人がマニアアックで優良な検証動画をあげてくれています。正直その情報を鵜呑みにする事は出来ないと思いますが、アイデアや知識は良くも悪くも参考になるのでたまに見てみるのはとても刺激になります。

秋葉原のパーツ屋やマニア向けハイエンドオーディオなんかが売っているお店で様々なパーツを調達してくる訳ですが、そういうお店の愛好家たちが作る楽器やシールドがあまりいい音をしているのを聞いた事がありません。動画やなんかでも「このギターいい!」とか嬉々として語っている紹介動画も多いのですが共感出来ない事も多いです。ごめんなさい。本当にち●こ溶けるくらいいい音ならそのギターから離れられなくなるもんですが、普通に他のギターや機材でも同じような事言ってたりします。手放しで情報を信用するのはよくないですね。それに、エレキギターの場合はギターからシールド、エフェクター、アンプ、自分のプレイスタイルのトータルバランスの中での音なので試奏では本当の音はわかりません。試奏でわかるのはデスティニー(運命)です。それに対し、改造や機材のアップデートはマリアージュ(結婚)に似ています。マリアージュした事ないですが。

これがいい音に違いない、理論的にはこれが最高の周波数特性だ、と独りよがりにいいものを押し付けると、それが確かにいいものでもやがて不調和を生み出します。また愛好する音楽によっても必要ないい音が違ってきます。この辺りはサウンドメイク山麓の少女Hi-z /Sensitive sound Hi-z as one mountain girlの記事にも少し参考なりそうな事書いていますのでよかったら参考にしてみてください。

個人的に楽しむ分にはなんでもいいと思うのですが、僕は楽器メーカーのコンサルやミキサーとして好き嫌いという相対的な領域から離れて音を判断しなければいけません。だから僕は新しいパーツや機材を使う時にはより厳然とした客観的なリファレンス基準があります。そしてそれはよりシンプルでなければ、現場で役に経ちません。スペクトルメーターや難しそうな周波数計算や専門用語を持ち出してうまく煙に巻くというテクニックもありますが、あいにく僕は得意じゃありません。小学生でもわかるくらいシンプルでなければその場でお客様と共有できないのです。シンプルすぎるとお金になりませんがw

そんな僕のリファレンスの一部をご紹介したいと思います。

1, 音の解像度

スタジオモニターやコンデンサマイク、DAWなんかのリファレンスの際にはたまに聞く言葉ですが、意外とギター、エフェクター改造愛好家の間では聞かない言葉です。解像度という言葉は映像機器で聞く事の方が多いかもしれません。4Kとかそういうやつです。解像度が上がるとその領域の情報量が多くなり、より細かく繊細な情報伝達が出来ます。

エレキギターを例にとって話すと、チョーキングプレイで「ギュイン」と音を鳴らした時、どんなギターでもその音程が聞き取れないものはありません。しかし、そのチョーキングプレイが「ギュゥインン」なのか「ンギュゥインィン」なのか、より繊細なニュアンス部分の表現に関しては解像度が低いと音が失われてしまいます。安いギターに付いているピックアップではピックアップコイルのから電気信号に変わる始点で解像度が失われている場合があるので、その後ろのパーツをどんなに頑張っても解像度が上がらない場合も多々あります。

高解像度の楽器、機材はより繊細な表現が必要な音楽やプレイヤーにはフィットします。しかし、なんでも高解像がいい訳でもありません。歪んだ音が魅力のラウドロックやメタルなどの分野ではかえってこの高解像度が不利益になります。ニュアンスとは言わば主音に対する雑音とも言えます。ゲインを上げるとその雑音も拾ってしまい美しく歪みません。そして、多くの情報があるということはプレイヤーの細かいミスも隠さず出てしまうので、プレイヤーはそれをコントロールする高いスキルが必要になります(それかめっちゃ簡単なものを弾く)。高解像度の楽器をガサツなプレイヤーが演奏すると余計な情報量が聞こえすぎて逆に疲れてしまいます。ですので、高解像度過ぎる楽器はアマチュアには向いていません。演奏する音楽、プレイヤーのスキル、必要に応じた解像度をデザインしなければいけません。

スタジオモニターを選ぶ際にも細かいところまでこだわる音楽スタジオでは高解像度のものが好まれます。逆にMAスタジオではそこまで高解像度のモニタースピーカーは選ばれません。なぜなら、余計な音が聞こえて必要十分以上のノイズをとったり、気になって無駄な作業時間が取られてしまうからです。ミキサーがTV用にそんなに拘っても、それを表現してくれるスピーカーで見ている視聴者の数はおそらく万が一より少ないでしょう。僕が以前いたP’s StudioではJBLのモニターを使っていましたが、絶妙なサウンドクオリティーと価格でした。この絶妙さはプロの仕事だな、と入った日に感動した覚えがあります。

高解像度を実現するにはまず、アナログ領域でいい素材を使ったパーツ、配線材を使うべきです。基本的に導電率が良いものが解像度が高い傾向がありますが、特定の周波数に特化されてしまっているものは必ずしもそういう訳ではありません。通常人間の耳は心地よい高域の減衰を好みます。解像度を保ちつつ、高域が気持ちよく減衰する素材がベストなのです。そう言うと難しく感じますが、中価格帯以下の楽器ではあからさまに粗悪な線やパーツがコストの理由だけで雑に積まれています。それを普通の素材でリプレイスしてあげるだけで全ての面で結構改善が出来ます。

周波数特性はある程度後ろのEQ処理でなんとかなるのですが、解像度だけは失われてしまってはどうにもならないので一番最初にリファレンスします。

2, 周波数特性

これはどんなサイトや動画でも一番に触れられますね。このギターHiの抜けがいいね、とかLowがグンとくるね、中域が滑らかだね。とかそういう話で出てくる周波数の話です。聞いたままの感想のリファレンスなので深みのある話ではないのですが、2番目に僕は聞きます。

例えばギターの素材を選ぶ時、Hiが出るものはLowが出ない傾向になるので、そのままにするか、Lowを膨らましてドンシャリにするのか、中域を出していいバランスを目指すのか考えます。テレキャスターでカッティングだけするなら低域はいらないからハイパスフィルター入れようとかそう言う判断をします。いいパーツ、導電率がいい素材を使うとHiはよく出ますがHiが出ればいいという訳でもないので注意が必要になります。Hiが出にくいけど中域以下の解像度がいい素材が低音が気持ちいいと言われています。

基本的にはアンプ側などの後段のEQとの兼ね合いになるので、あまり極端な場合以外はEQノリが良さそう、悪そうだな、くらいのものです。僕のギターはギンギンに高域を出すようにしてトーンで絞ったりしてることが多いです。

でも、元々の傾向がどっちに向いてるかはとても大事なのでしっかりと把握しなければいけません。

3, 倍音

これは少し音楽的で感性的な話です。

エレキ楽器が伝えられる電気信号は無限ではありません。重なった電気信号の周波数はアナログ領域の素材の中で勝手に混ざりあい特有の周波数特性が形成されます。それが倍音です。ストラディバリウスとかヴィンテージバイオリンのリファレンスで美しい倍音、とか言われたりするのと原理は同じ事です。ヴァイオリンは本体の振動による倍音のみの話ですが、エレキ楽器はその音を拾い伝送する電気信号の領域までが倍音として取り扱われます。キラキラした倍音と言われれば、高域の混ざり具合が綺麗だという事でしょうし、スッキリした倍音と言えば中低域がそんなに混ざり合わず中高域に特性があるような倍音なのでしょう。

これは特に法則性がないので実際使ってどういう音がするか聞いてみないとわかりません。たくさん試して美しい倍音のパーツや線材を見つけるしかありません。倍音を作るのは難しいです。そして、美しい倍音もアールマイティーではありません。アルペジオのロングトーンを弾くといまいちだけど、チューブアンプでオーバードライブさせてパワーコードを弾くと最高にかっこいい倍音で鳴る線材というのも僕は持ってます。結局はここでも狙いに応じた、使用用途に応じた選択が必要になってきます。

ちなみにこの倍音というやつはデジタルが最も苦手な分野です。アナログなら自然にそうなるものを人間がプログラムしなければいけません。だからアナログ領域で綺麗な倍音の楽器を選ぶのはとても重要な事なのです。

倍音はコントロールしにくいので聞くのは最後ですが、いいものは弾いた瞬間わかりますね。一番重要な要素ですが、音楽的で感性的な要素も強いので最後に総合的な判断として考えます。

 

僕のリファレンスの根幹はこの3つです。表現者の表現を十分に伝える解像度があるか、周波数特性はどの辺にあるのか、その音は美しいか、です。人によっては数値化した方がわかりやすいかもしれませんね。このBeldenの線、解像度=3、Low,Mid,Hi=3,6,8 、倍音=6のように。

楽器、機材、パーツを選ぶ際、自分の中でしっかりしたリファレンスがなければその場の雰囲気のいい悪いで評価しがちになるので、しっかりしたリファレンスの基準を自分の中で構築することをおすすめします。

 

読んでくれてありがとう。

僕はこう思う。

Taiyo Haze

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