さて前口上も終わってここから本番です。この講座はミュージシャン、ライトミドル層のクリエイターに必要なデジタルの知識を得る事に主眼を置いています。まずはアナログとデジタルの違いをはっきりさせておきましょう。また、基礎的な言葉の定義も明確に出来ればと思います。ちょっと小難しい概念的な話も続きますが少しづつ読んでみてください。

2.アナログとデジタル

アナログが先かデジタルが先かと言えば、絶対アナログが先です。

これは音響の事に関わらず、あらゆる分野でデジタルはアナログの複製物でしかありません。また、デジタルデータは1,0の数字の集積ですが、それをHDDやフラッシュメモリ、何かに電気的に書き込みそれを読み取ります。つまり概念的(実態がなく、都合のいい世界)に存在しているものでなく、それは全くアナログ的に存在しています。レゾンデートル(存在理由)も存在方法もアナログなのです。(レゾンデートルと言わせてw)

音響の分野なら、どんなにデジタル領域で複雑なアルゴリズムを組んだとしても、人間の鼓膜を揺らし最終的には聴覚神経を刺激するのは空気振動(水中なら水振動)でなければいけません。それはアナログ以外のもので達成できません。だから、たとえすべてをPCやスマホ内のデジタルアプリケーション内で制作した超デジタル派の楽曲であってもアナログの縛りから逃れられる事が出来ないのです。

しかし余談ですが、最終的に聴覚神経から脳を刺激するのは電気的インパルスなので将来的には直接デジタル信号を脳が知覚するガジェットが出来るかもしれませんね。単なるインパルス(信号)ならデジタルデータと親和性は高いはず・・・。関係ないw

デジタルがアナログの副産物だからといってデジタルを軽視して良いものではありません。デジタルはアナログの苦手な事を補完する為に生まれました。言わばデジタルなきアナログは家来のいない王様です。家来だけで国を動かそうとすると小賢しい小手先の国政で国は迷います。どんな立派な王が立派な政策を考えても一人で実行できる事には限りがあります。どちらも強固でなければ国は強くなりません。

また、昨今デジタルとアナログの話をする時理解を歪ませているのが、「俺はアナログな人間だから、、」というような時に使われるアナログ、デジタルという言葉(概念)です。アナログ=古い、デジタル=新しい、というような感覚で使っているのかと思います。語源的にもそのような意味は全くなく、通俗的な比喩表現です。エンジニアリングの話をする際はこの感覚と切り離して考えてください。

デジタルとアナログはどこまで行っても相互補完の関係でしかないのです。

2-1 データのそもそもの意味

アナログ、デジタルと言えばアナログデータ、デジタルデータを意味することが多々あります。ですので、データという言葉の意味を少し考察してみましょう。

データとは情報の事ですね。特に僕たちが使用する場合には記録された情報という意味を含んでいます。データと聞けば数字の羅列のようなものをイメージする人も多いかしれませんが、アナログのデータと言えば本(紙資料)やレコードのビニール盤、フィルム等の事を指し、デジタルデータと言えばメディア、記録媒体(HDD、サーバ等)に記録された情報の事です。何かを調べて数値化したもの(統計したもの)をデータともいいますが、調べても記録していなければデータとは言えません(学術的に超厳密に言えばそれもデータとされますが、残ってないデータをデータと言い張るのは現実的ではありません)。

だからデータと言えば字義通りのレコーディング(record)、記録された情報という事なのです。記録するという行為がデータにとって大きな意味を持ちます。誰が、どのように、どうやって記録するかがデータにとってのアイデンティティになります。

2-2アナログとデジタルの概念

アナログという言葉をネットで検索すると、連続した量を表す云々と説明されています。確かにその通りで間違いのない説明なんですが、アナログの説明だけでは何か要領を得ません。

なぜならこの説明は先にデジタルありきの説明だからです

デジタルが世の中の覇権を握り、デジタルに対してアナログの説明が必要なので出来た概念なのです。いわば、デジタルのポジショントークです。初めに書いた通りアナログが先なのですが、現代に合わせてデジタルから理解した方が理解しやすいと思います。

2-2a デジタル

さて、デジタルの概要から明らかにしましょう。デジタルとはある情報を数値に変換して表現する方法という事です。その数値を1〜10で表現することも原理的には可能なんですが、デジタルとは情報を1か0に変換して表現する方法という解釈して構いません。ほぼ全てのコンピュータが1,0の二進法を採用しているからです。

1,0に判別する

また、デジタルは1,0に変換しているという話はよく耳にします。もちろん電気信号自体に1,0という種類がある訳ではありません。1,0を判定する時にはある一定の電圧より上の時がOn(1),下の時がOff(0)という風にアナログデバイスのOn、Offで判定して変換しているのです。このような処理を離散化するといいます。

例えば5V以上がOn,それ以下がOffとします。その時ある電圧がOnと判定されデジタルデバイスに1と記録されました。しかし、その電圧が5.1であったのか6.8であったのか詳細はわかりませんが、どっちであっても動作に問題はありません。竹を割ったように1,0どちらかに変換するという事は、1と2の間の中庸がありませんので、1,0にはっきり袂を分けることになります。その間がなく、OnかOffかの羅列状態が離散化という事です。

まぁ、この言葉自体はどうでもいい事なんですが、デジタルを作っているのはアナログだ、という事を頭の隅に残しておいてください。また、これが後述するデジタルにおけるサンプリングという行為の根本原理です。

デジタルの機器に囲まれて生活しているとアナログなんて時代遅れのものは使っていない、というような感覚に陥りがちです。そして、デジタルなんだからなんでも同じだという感性でアナログ領域を軽視していきます。コンピュータやスマートフォンのメモリもCPUも言わばアナログです。確かにアプリケーションには個体差はありませんが、厳密にはデジタル機器にもアナログ機器と同様に個体差があります。昔のアナログ機器は手作りで生産されていたり、手動の工程が多かったらそのようなイメージが根付いたのかもしれません。たしかに手作りだと生産管理がしにくく、個体差が大きくなるのは当たり前のことですよね。

2-2b アナログ

デジタルの基本を確認するとアナログのことがよりわかってきたのではないのでしょうか。

要するにアナログとは1,0に変換しないで表現する方法、ということです。

もし、デジタルが存在しなければこのような事も意識しないはずです。アナログもデジタルと同じように情報を違う形式に変換して記録しています。音ならばマイクなどを使って空気振動を電気信号に変換します。そしてその信号をレコードの溝や磁気テープに記録します(エジソンやベルリナーの時代では電気信号に変換せず直接空気振動を円筒や円盤に刻んだ)。アナログ写真では光をフィルムに転写します。アナログも様々なものに変換を行ってデータ化しますが、デジタルのように大胆な変換は行いません。音や光の周波数(スペクトル)をそのまま転写するか、電気信号などできるだけ近いもの(アナロジー)に変換しているのです。音にしろ光にしろ周波数の波を波のまま記録しようとする方式、とも言えます。この辺りがアナログとデジタルの大きな違いです。

2-2c データ量、情報量の違い

アナログの情報は連続性がある、と一般的には説明されます。その為デジタルに比べ情報量が多い、とも言われますが、それは先に説明した通りデジタルの立ち位置からのポジショントークです。この場合の情報量という概念も、単にデジタルデータに変換する場合のデータ量という意味です。

この理屈でいくと古ぼけたモノクロのフィルムや擦り切れたレコードの情報量がすごいという事になってしまい、何か釈然としない感覚に陥ります。私たちが感覚的に捉えている情報とは脳が受け取る情報の事です。

デジタルの場合Byte数が多いと経験的に情報量が多いと思ってしまいますが、映画MAの現場ではたまに5.1chの映画尺の音声データ数十GBが無音で送られてくるというミスがあります。この場合Byte数は多いが情報量はないという事になります。またMp3をハイレゾにアップコンバートしてもByte数は増えますが情報量は増えません。画像ファイルでは真っ黒な30MBのファイルも5KBの真っ黒なファイルも情報としては同じです。

このようにデータ量の話をする際に、人間の感覚から遠いデータという言葉と情報という言葉を都合よく使い分けてしまう為に感覚的な齟齬が生まれてしまう事があります。データ量が多いから高品質、と短絡的に考えがちです。情報量の多いものを大きなデータ量を使って保存して初めて高品質なデジタル情報となるのです。

言葉遊びのようで理解しにくいかもしれませんが、とかくこの分野は言葉のまやかしに騙されがちですので言葉の定義を疑ってみるというスタンスも必要です。

2-2-d 映像(視覚)と音(聴覚)のデジタル的違い

情報をByteの話ではなく人間に伝わる情報の量、という意味だとすれば映像の分野ではデジタルはアナログの情報量を上回っていると思います。どんなにいいアナログカメラを使っても、現代の高精細のデジタルカメラの鮮明さにはかないません。地上デジタル放送では出演者の肌の皺までわかるようになった、と開始当時には話題になりました。映像業界ではデジタルとアナログの論争は殆どありません。それはやはりアナログフィルムの不完全さのせいでしょう。映像のアナログフィルムは劣化し、色味が焼けたり抜けたりします。それならば、完全な記録ではないけれど(プログラムによって恣意的な補正が加えられるという意味)、劣化に強く、複製も容易なデジタルの方が圧倒的にクオリティの高い情報を伝えることが可能になります。

それに比べてレコードという再生機器はアナログ機器として秀逸でした。ビニール盤に波形が彫り込まれているので経年による劣化には強いのです。カビや湾曲、摩耗がなければ今でも当時のままの生々しい音を再生することが可能です。音の分野で未だにデジタルとアナログの音質論争があるのはレコードの音質が良すぎるせいでもあります。レコードといえど生の音とは違うのですが、レコードに比べるとデジタルサウンドはハイレゾですらまだまだ物足りないクオリティーです。今だにライブが一番と言われているのはこのような事も関係してくるのは間違いありません。伝わる情報量が圧倒的に違います。これは昨今の配信ライブが今ひとつ人気がない大きな要因です。

このような違いが生まれるのは視覚情報と聴覚情報の質の違いかもしれません。どんな映画でも絵画でも写真でもそれは2次元であり人間は現実世界とは違う世界と認識します。自画像や写真の中の自分が鏡の中の自分と同様本物ではないと認識している為、映像や写真に初めから本物を求めていないのかもしれません。もしかすると、映像分野もVRの世界が発達してより一般化すると音のようにデジタルとアナログの論争が生まれるかもしれません。VRはリアルさを求められる媒体だからです。

 

読んでくれてありがとう。

次章へ続く。

Taiyo Haze


デジタル編 序  はじめに

デジタル編① 基本事項のおさらい

デジタル編② アナログとデジタル

デジタル編③ デジタルが音になるまで

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